現状の労務の課題
退職届提出後の撤回希望にどう対応すべきか?
この事例の相談元は、地域密着型で複数の拠点を運営している介護事務所です。ある日、職員の一人から退職届が提出されたものの、数日後に「退職を撤回したい」との申し出があり、事務所側は対応に困惑しました。
社労士事務所からの提案内容
法的な整理と社内ルール整備の必要性
この事例において、社労士事務所からは以下のようなアドバイスが行われました。
退職届の法的効力について明確に認識することが必要
原則として、退職の意思表示は使用者が承諾する前までは撤回可能です。しかし、一度会社が退職を承認した後であれば、退職の効果が発生するため、撤回はできません。
退職撤回の申し出は「再雇用の申込み」と同様に考える
そのため、会社側に受け入れる義務はなく、再雇用するかどうかは会社の判断で構いません。
「誰が承諾権限を持っているか」を明確にしておくことが重要
特に支店や営業所を持つ企業の場合、施設長(支店長)が承諾していたとしても、その権限がないとみなされた場合には、労働者側の撤回が認められる可能性があります。
就業規則や社内規程により、承諾権限者とその範囲を明文化しておくことが必要
誰が退職届の承諾を行えるのか、また、どのような手続きが必要かを明記することにより、今後の類似トラブルを防ぐことができます。
口頭ではなく書面での手続きを推奨
「言った、言わない」のトラブルを避けるためにも、退職の意思表示や撤回申し出は書面で残すよう指導しました。
解決後の結果
就業規則の見直しで、今後のトラブルを予防
今回の支援により、介護事務所では就業規則を全面的に見直しました。退職に関する意思表示の取り扱いや、承諾権限者の範囲を明文化したことで、労務トラブルを未然に防止する体制が整いました。また、職員への説明や周知も行い、職場全体としての法的理解も深まりました。
本件のポイント
退職の意思表示の法的効力
会社側が退職届を承諾した後は、原則として撤回できません。
支店長の承認権限の明確化
就業規則や社内規程により、誰に承認権限があるかを定めておく必要があります。
就業規則での規定の必要性
ルールや決定権者を明確にし、全社員に周知することで混乱を防げます。
書面でのやりとりを推奨
トラブルを避けるため、退職や撤回の意思表示は必ず書面で残しましょう。
おわりに
退職に関するトラブルは、対応を誤ると訴訟リスクや社内の不信感を招きかねません。今回の事例のように、事前のルール整備と社労士の専門的な助言が、トラブル予防に大きく寄与します。就業規則の見直しをまだ行っていない場合は、ぜひこの機会に専門家への相談をご検討ください。